小児がん経験者が集まって、少し先輩の高校生たちの体験談を聞き合い、今の想いやこれからに向けて考えていることを話し合う「おしゃべり会」を開催しました。その様子を3回に分けてお届けします。今回は、高校2年生のゆいさんです。

中学2年の冬休み、不正出血が続いて貧血が酷くなったことから、検査のために入院。そこで小児がんが見つかり、約1年にわたり手術や抗がん剤による治療を行った優衣さん。病名を告げられ入院した当初の不安、治療に向き合う日々の中で訪問学級や復学してから実感している「まなび」への想いを伺いました。

ゆいさん 小児がんになった自分を受け入れて生きる

初めて病名を伝えられた時は、頭が真っ白になったのを覚えています。病室に戻り、考えを整理しようとしましたが、不安でたまらず、気持ちが落ち込むばかり。受け入れられたのは、病気の詳細と必要な治療について、CLS(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)*1の方から説明していただいてからです。入院前の出血が止まらなかった原因がはっきりしたことで、怖さはありましたが、生きるためには治療するしかない、と気持ちが定まった気がします。

からだ中すべての痛みに向き合いながら

最初に聞いてはいたものの、抗がん剤の副作用で、髪の毛だけでなく、眉毛やまつ毛まで、すべてが抜けてしまったことがとてもショックでした。そんな自分の顔を見ることができず、鏡を家に持ち帰ってもらったほどです。

入院中のベッドで

抗がん剤投与は1週間に1回でしたが、その間、からだが重苦しくて身動きできず、寝ていることしか出来ません。治療のつらさを言い表すなら、「1つの薬でからだ中が痛みとだるさに襲われる」感じです。激しい頭痛に腹痛、腕、脚、節々まで、からだ中が痛くてたまらない。美味しく食べたご飯も吐き気がひどく、吐いてしまう。体力が落ち、院内での移動だけでも大変でした。バレーボール部で走り回っていた頃との差も大きく、自分の姿を誰にも見られたくない、元の自分には戻れないというネガティブな気持ちになっていました。

治療に向き合う中で気付いた“まなび”

入院当初、病棟では私が最年長でした。入院期間が長かったこともあって、年下の子ども達や医療従事者の方たちから頼りにされることもありました。それ自体はありがたく、うれしかったのですが、自分が抱えている不安や苦しい気持ちを誰に話せばいいのか、わからなくなっていきました。

治療中は心の余裕を持つことがむずかしいけれど、あの時、素直に自分の気持ちを言えていたら、もう少し楽な気持ちで過ごせたのかもしれません。治療や入院生活には様々なストレスがありますが、それを少しでも和らげ、心地よくいられるためには、私のような中高生や長期入院患者にも、自分の気持ちを伝えられる相手や場所があるといいな、と思います。

そんな日々の中でも、時にはお医者さんや心理士さん、CLS*1の方たちと一緒にカードゲームをしたことは楽しい想い出です。こころ弾む時間があることで、気持ちが少し晴れて、また明日も頑張ろうと思えました。就寝前の健康確認時、夜勤の看護師さんと少しだけおしゃべりすることも、私にとっては貴重な時間で、毎晩楽しみにしていました。

病気と闘いながら、勉強を続けるむずかしさ

入院中は訪問学級で勉強していましたが、手の筋肉さえも衰えてしまい、字が上手く書けなかったり、抗がん剤の副作用で体調が悪く出席を諦めたり…治療しながら以前と同じように勉強を続けるのは、とてもむずかしいことを実感しました。

私は中高一貫校に在籍し、先取り学習をしていたので、訪問学級が始まった中学3年の時には「数学Ⅰ」「数学A」など高校1年の学習をしていました。入院したことで、こうした基礎となる部分を勉強できていないことへの不安は、復学した今でも残っています。

体調の波がある中で、勉強に取り組んできた優衣さん

思っていたような“元通り”の自分にはなれない

中学3年の3学期から復学しましたが、驚いたのは思っていた以上に自分の体力がなくなっていることでした。通学に電車とバスを使いますが、階段の昇り降り、電車の揺れがきつい。学校に行くだけで精一杯、という状況は退院して1、2年経った今でも続いています。

クラスに入ると、「久しぶり!」と言ってくれる友達もいましたが、学年末近くに急に入って来たことを不思議がられている様子を見て、気まずさも感じました。また体調が戻っていないので、体育は見学することが多かったのですが、その理由を聞かれても、正直に話せずにいました。また、ウィッグを付けていることで人の視線が気になることも多く、自分は普通の高校生とは違うんだというマイナスな感情を抱えていました。

学習面では、入院していた1年分の勉強が足りないことを感じる場面が多くあり、不安な気持ちになることは少なくありません。もっと訪問学級の授業に参加すればよかったのかな、と悔やむこともあります。でも、あの時は病気と闘うだけで精一杯だったし、そんな自分を認めてあげたい。今後、長期入院した子どもたちに対して、勉強の支援をする仕組みができれば、安心して復学できるんじゃないかな、と思います。

自分が得たことを「まなび」に変えて、誰かの役に立ちたい!

復学する際、小児がんの治療で抗がん剤を投与したことに加えて、今なお体調に波があることや様々な副作用、治療後の合併症については、私から伝えるようにしていました。そこであらためて思ったのが、自分の状態を言葉にし、周囲に理解してもらうことのむずかしさと大切さです。

小児がんを経験した私たちが向き合う治療のつらさや痛み、怖く不安で自分だけが取り残されていくのではないかという気持ちは入院中だけでなく、退院後も続きます。私自身、経験者として自分の気持ちを話すことや、髪が伸びてウィッグを外せたことをきっかけに、段々と病気になった自分を受け入れられるようになりました。

何不自由なく日常を送っていた頃の自分とは違うけれど、今の自分だから話せることがある。それを多くの人へ伝えることで、ひとりでも多くの人に気づき、知ってもらい、そこから病気と闘う子どもたちへの共感が生まれ、支援が広がることを願っています。

合併症を抱えながら、今日から明日へ

私は子宮に腫瘍が出来ていたため、予後を考慮し、摘出手術を行いました。生きるためには仕方ないと決断しましたが、今後の人生への影響が気にならないわけではありません。

退院後、私の手術の合併症を研究している医師が新しく発表した論文のことを知りました。会いに行って話をさせていただきましたが、症例が多くない中で、研究してくださる方の存在はとても心強く感じ、合併症になった自分を受け入れて下さった気がして、前向きになることが出来ました。

自分の経験と気持ちを、自分の言葉で伝えたい――病気をしたことも含めて、自分自身なのだと受け入れて歩んでいきたい、と思っています。

* チャイルド・ライフ・スペシャリスト
医療環境にある子どもやその家族に、心理社会的支援を提供する専門職