急性リンパ性白血病(ALL)とは?
白血病は「血液のがん」です。がん細胞とは、正常な細胞であったものが、遺伝子の異常などが細胞に起こることによって「正常な機能を持たないまま」「過剰に増殖するようになってしまう」細胞です。がん細胞がどの臓器にできるかによって「胃がん」「肺がん」などになり、血液細胞ががん細胞になってしまった病気が「白血病」です。小児期に起こるがんの中で最も多いものが白血病です。そのうち、急性リンパ性白血病は日本で1年間におよそ数百人のお子さんが発症している病気です。
血液の細胞は骨の中にある「骨髄」で作られますが、白血病細胞も骨髄で増殖します。骨髄に細い針を刺して中身を検査(骨髄検査)し、白血病細胞がたくさん存在していることで白血病と診断されます。白血病細胞は増殖し続けますので、白血病になると正常な血液を作る力が抑えられてしまい、正常な血液の細胞(白血球・赤血球・血小板)が減ってしまいます。
正常な白血球は主に免疫力を担っています。ですので、少なくなってしまうと、「感染症にかかりやすくなる」「感染症が治りにくくなる」「通常の免疫力があればかからないような感染症になる」などの症状が出ます。白血病と診断された時には、白血病細胞が血液の中にもたくさんみられることがあります。白血病細胞は通常の血液検査では「白血球」として数えられてしまいますので、診断された最初のころの「白血球」の数はむしろ多くなっていることもありますが、正常な白血球は減っていることがほとんどです。
正常な赤血球は主に酸素を運搬する働きをしています。酸素は細胞が機能するために必須なので、少なくなってしまうと、いわゆる「貧血」の症状としてだるさやめまいなどが現れます。過度に少なくなると、体の臓器が正常に機能することができなくなってしまいます。
正常な血小板は主に出血を止める役目を果たしています。ですので、少なくなってしまうと血が止まりにくくなり、大量に出血してしまったり、重要な臓器(脳など)に出血をしてしまったりすることがあります。
そのほかに、白血病細胞が骨髄の中で増えることにより骨が痛くなることがあります。また、リンパ節や肝臓・脾臓に白血病細胞がたまることによって大きくなり、首や足の付け根などにしこりができることがあります。
それぞれの症状の程度は個人差がありますので、すべての白血病の方に同じ症状がでるわけではありませんが、白血病細胞は自然になくなることはありませんので、治療をしないとこれらの症状が進行し、命に関わる状態になってしまいます。
白血病細胞は血液の中を流れていますので、手術で治療するのではなく、薬を使った治療(=化学療法)をします。数十年前までは、小児の白血病はほとんど治らない病気でした。しかし、薬をどのように使うのが効果的なのかが分かるようになったことと、治療を手助けする支持療法が進歩したことなどによって、長期生存率はおおきく向上しました。現在では、小児の急性リンパ性白血病の約80%以上が長期生存することが確認されています。
しかし、逆に言えば、白血病の治療は100%治る段階まではまだ到達しておらず、完璧な治療には至ってはいません。なるべく高い確率で治し、かつ副作用を最小限にとどめるためには、白血病細胞の性質をよく調べて分類をし、その特徴にあった薬の組み合わせと量で治療をすることがとても重要です。
白血病の分類の一つが「急性」と「慢性」および「リンパ性」と「骨髄性」の分類です。骨髄の中にみられた白血病細胞を調べた結果によって、例えば「急性リンパ性白血病(ALLと略します)」と分類されます。急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病(AMLと略します)は共通する薬を一部に使いますが、治療の全体としてはかなり異なりますので、この分類をしっかりすることがとても重要です。
急性リンパ性白血病は、「B前駆細胞型」「成熟B細胞型」「T細胞型」の3種類にさらに分類され、それぞれによって治療の内容が異なります。成熟B細胞型の急性リンパ性白血病(ALL)は、リンパ腫と同じような治療を行うことが必要なため、リンパ腫の説明ページをご覧ください。
急性リンパ性白血病と診断が確定したら、ステロイド剤と抗がん剤を組み合わせた治療を行います。ただ、これまでの白血病の治療研究などの成果により、急性リンパ性白血病のなかでも「○○の検査が陽性な白血病は長期生存率が高い」「○○の検査が陽性なら長期生存率が低い」などのことが分かっています。そこで、最初に白血病細胞に様々な検査を行います。結果は後日わかるものが多いので、まずは治療をはじめ、その結果によって治療の強さを調整します。さらに、初期の治療により白血病細胞があまり減らない場合も、治療を強化したほうがいいことが分かっています。このようにして、病気の細胞の「てごわさ」を予測して治療の強度を調整する(層別化といいます)ことが、白血病の治療でとても大事だと考えられています。
また、脳は髄液という水の中に浮かんでいますが、この髄液の中には点滴などで投与した薬は到達しにくい構造になっています。本来は脳を守るための機能ですが、白血病の治療をする上ではむしろ問題になることがあり、飲み薬や点滴だけで治療を行うと、髄液の中から白血病が再発することがあります。髄液の中からの再発(中枢神経再発)する確率を減らすために、髄腔内注射(髄注)が行われます。背骨の間から細い針を刺し、直接髄液の中に薬を投与します。また、白血病の診断時にすでに髄液の中に白血病細胞がある場合には、髄注に加えて放射線照射を併用して治療を行うことがあります。