小児がん経験者が集まって体験談を聞き合い、それぞれの想いを話し合う「おしゃべり会」の第2回をお届けします。

生後4ヵ月で脳腫瘍が見つかった当初は、治療が出来てもすべての機能を失う可能性を示唆されながら、最善の医療を求めて国立成育医療研究センターへ。約2年間の治療を経て、頭に小さな腫瘍を残し、晩期合併症として弱視を抱えながらも、一歩ずつ、歩みを重ねてきたかりんさん。中学受験を経て現在、高校1年生。中高一貫校で自分にできる「まなび」の姿を求め続けています。

かりんさん “自分に与えられた病気”と共に生きる

入院していたのは赤ちゃんの頃だったので、母から聞いた話と写真に残っている姿だけで、当時のことはほとんど記憶がないんです。父やきょうだいが励ましに来てくれてうれしかったことをうっすらと覚えているぐらい。最初の長期入院から退院したのは1歳の誕生日の直前。その後も入退院を繰り返し、治療に区切りがついたのは2歳半の時でした。

入院中、お誕生日を祝って

「小さい頃に病気だった」と母から聞いてはいましたが、自分が周りの子と違うことに気付いたのは保育園に入ってからでした。みんなが見えるものが、自分には見えない。自分だけがマスクをしないといけない。「どうして見えるの?」「なぜ私だけ?」と少しずつ自分に見える世界が他の人と違うことや病気と共に生きていることを自覚していった気がします。

まなぶために必要なツールを得て

小学校では普通クラスで授業を受けながら、週3回は学校内にある弱視学級に通いました。単眼鏡を使って板書をとったり、体育では補助の先生とキャッチボールをして、距離感をつかむ練習をしたりしました。

その他、手元で拡大して読むためのルーペや拡大読書器、傾斜をつけて文字を読みやすくした書見台、黒地に白文字で見やすくした定規など、様々なツールを使うことで、勉強に取り組むためのベースとなるものを身に付けてきました。

自身の単眼鏡の使い方を発表した時の原稿より

普通の教科書だと字が小さくて読めませんが、文字を大きく読みやすくした拡大教科書を用意して下さるボランティアの方がいたおかげで、とても助かりました。ただ、拡大教科書はどうしてもページ数が多く、重くなるので、中学2年生までは持ち帰るのが大変でした。

中学3年生から教科書や教材を見やすく表示できるアプリ「UDブラウザ」が導入され、主要教科のデジタル教科書をiPadひとつで見られるようになりました。読みやすい大きさに調整できるし、マーカーなどの書き込み機能もあってとても便利です。

視力が弱いことで勉強が遅れることがないようにと、母がとても気にかけてくれて、勉強を続けるための環境づくりに心を砕いてくれています。中学受験をしたので、小学校の間は塾に通いましたが、周りの子と同じ「まなび」を得られる大切さをありがたいと思っています。

見えづらさから生じる人間関係のむずかしさ

見えづらいことでいちばん困るのは、人の表情を読み取るのがむずかしいことです。相手の気持ちの動きなど、些細な変化を見ながら話せないので、私が話している途中で急にさえぎられたり、話が嚙み合わないことを理由に仲間に入れてもらえなかったり…。人間関係がぎくしゃくしてしまうことがありました。

今は、声の調子や間合いから相手の感情を読み取ることに慣れてきたので、以前ほど、人間関係でつらい思いをすることは減ったかな、と思います。以前は苦手だった“周りに合わせる”ことができるようになったことで、友達との関係を築くことにも繋がっている気がします。

周りからのサポートへ感謝しつつ

私の見え方の特徴として、色の区別はできますが、細かいものは見えません。そのことを気にかけて、「どのくらい見えるの?」と尋ねてくれる友達は、本当にありがたいです。私がどのようなサポートを求めているのか、「こうする?」と声をかけてくれることもうれしく、心強く思っています。

こうした近くにいる人だけでなく、学習支援や出先で手助けしてもらえることに対して、感謝の気持ちを大切にするように、と母から言われてきましたが、成長するにつれて、その意味がより深く理解できるようになってきました。

手助けを頼んだ時に、気持ちよくサポートしてくれる人がいる一方、あまり前向きではない様子を見せる人もいます。だからこそ、周りの人に対して「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えるようにしています。

中学生になってからミッションスクールに通い始め、感謝の気持ちの大切さを考える機会が増えました。いつも心にあるのは、この聖書の一節です。

民数記 6章24-26節

願わくは主があなたを祝福し/あなたを守られるように。

願わくは主がみ顔をもってあなたを照らし/あなたを恵まれるように。

願わくは主がみ顔をあなたに向け/あなたに平安を賜るように。

小児がんだったことを「私の個性」に

私の場合、腫瘍が成長ホルモンに関わる視床下部にあったので、低身長にならないように成長ホルモンを補充する治療を続けています。去年までは毎日、自分で注射を打っていましたが、今は週1回のものに切り替わったので、少し楽になりました。

私にとって、病気であることも含めて“自分”なんです。それは変えられないことなので、マイナスとして考えるのではなく、自分の個性だと捉えることでプラスに変えていきたい、と考えています。

中学3年生の時に論文を書く課題があり、小児脳腫瘍をテーマにしました。病気のメカニズムや治療方法、それに伴う晩期合併症まで調べたことで、病気への理解が深まり、自分と向き合う時間を持つことが出来ました。この論文は、担当医を通して、国立成育医療研究センターへ寄贈する予定にしています。

中学3年生の時に課題で提出した論文の表紙より

病気になったことで出来ないこともありますが、今の自分だからこそ出来ることもあると信じて、自分のやりたいことや夢を持つことを諦めず、前向きに進んでいきたい――自分自身だけでなく、同じような経験をした仲間たちにも伝えたいです。