シャイン・オン!キッズでは、小児がんや重い病気と闘う子どもたちの現状、そして支援の取り組みを多くの方に知っていただくため、啓発活動を進めています。今回、その一環として、かのとさんに自身の闘病体験をスピーチしていただきました。

小学6年生の2月、卒業間近な時期に小児がんを発症。国立成育医療研究センターでの約半年間の入院治療中、様々なつらさを乗り越えられたのはファシリティドッグのマサとの出会いがあったからだというかのとさん。

当時から今へとつながる時間を振り返りながら、自身の想いを言葉にして伝える経験を通して感じたこと、得た“まなび”をお伝えします。

※原稿は、ご本人の手記とインタビューをもとに再構成しています。
(スピーチ時に投影した写真より)

――病気がわかった頃はどんな気持ちでしたか?

ほとんど自覚症状がないまま、入院することになったので、状況の変化に気持ちが追いつくことが出来ずにいました。楽しみにしていた小学校の卒業式に出られない。家族と離れてひとり、病院で過ごさないといけない。頭では理解しようとしても、治療に対してなかなか前向きになれませんでした。

コロナ禍で面会が制限されている中、家族に会える時間も限られ、とても寂しかったです。時には、帰り支度を始めた母に、「帰らないで!」としがみついたこともありました。

――治療に対しては、どのように向き合ったのでしょう?

治療前の説明で、抗がん剤の副作用で出るかもしれない、と言われていたものがすべて出ました。からだ中がだるくて動く気になれない食欲がなくて食事が摂れない。髪の毛が抜け、貧血で倒れたこともありました。体調面に加えて、長い間、家に帰れず、家族と会えない時間が続いたことも寂しくてたまりませんでした。

そんな中で、私の心と体を助けてくれたのがマサでした。治療の副作用で体調が悪い時、マサは静かに寄り添って私の心の声を聞いてくれているような気がしました。ベッドから動きたくない時でも、マサとの散歩なら歩いてみようと思えたし、マサと一緒に「宝探しゲーム」をすることで、いつしかリハビリになっていたこともあります。

――入院中の“まなび”について、印象に残っていることはありますか?

マサが来てくれるようになったことで気持ちが落ち着き、保育士さんや看護師さん、担当の先生、作業療法士さんなど、病院内で話す相手が増えました。学校の友達と過ごせたはずの時間がなくなったことはつらかったけれど、一緒に治療を頑張っている病棟の仲間と仲良くなれたことや院内学級の先生たちとの出会いは、病気になったからこそだと思います。

院内学級の授業にも出来るだけ参加しようと頑張りました。体調がすぐれず、授業に出られなかった時もありましたが、半年間の入院中、治療と同じように、勉強も頑張ったことは、自分で自分をほめてあげたい、と思っています。

入院中に漢検4級に合格したこと、院内学級を設置している特別支援学校の読書奨励賞を受賞したことなど、出来ることが限られている中でも頑張ることで結果を得られたことは、大きな自信になりました。

――治療を終えて、退院した頃のことを教えてください。

中学1年の2学期から復学しましたが、院内学級と学校で勉強の進み具合が違ったので、後れを取っていることに焦りを感じることが少なくありませんでした。また、学年途中から復学し、クラスメイトの人間関係がある程度できているところに入ったので、もう卒業間近ですが、なじみ切れていないと感じることがありました。学習面だけでなく、長期入院した子どもに対するフォローアップがあるといいのではないかと思います。

また、私はマサと出会えたことで病気と向き合えたけれど、ファシリティドッグはたった4頭しかいないし、ファシリティドッグを知らない人がたくさんいる。そんな中で、ファシリティドッグの素晴らしさを伝えられるのは、一緒に過ごした自分にしか出来ないことなんじゃないか、という想いが募っていきました。

――自分の体験をスピーチすることになった時のことを教えてください。

スピーチの打診をいただいた時は、大勢の人前で発表することをカッコいいと思ったので、ほぼ迷うことなく、「やってみたい」と答えました。そしてやると決めたからには頑張りたいと思い、原稿づくりに取り掛かりました。

母と一緒に、最初の精密検査を受けた段階までさかのぼり、経験した出来事とその時々に感じたことを書き出してみました。当時はつらかったことでも、母とおしゃべりしながら入院中のことを振り返るのは、思いのほか、楽しい時間でした。自分の気持ちを言葉にすることは、自分自身を見つめる時間になった気がします。

――スピーチを通して、いちばん伝えたかったことは何ですか?

患者の側から見たファシリティドッグの効果や及ぼす影響を、実際に体験した私が発表することで、リアルなものとして伝えたいと思いました。それを聞いた方々を通して、【ファシリティドッグの支援】の輪が広まってほしい、と願っています。

そして、ひとりでも多くの人に、病気と闘う子どもたちの治療の苦しみや怖さ、治療によって起きる様々な困りごとを知ってほしいと思っています。私の経験を伝えることで、知ってもらえる人が増えることを体感できたのは新しい発見でした。

今後も、様々な機会を通して、「病気と闘う子どもたちには、マサ(ファシリティドッグ)が必要だ!」ということを声を大にして伝えていきたいです。

――スピーチを終えた時の気持ち、今後に向けての想いを伺えますか?

スピーチ練習をして臨みましたが、1人で発表するのは初めてだったので、かなり緊張しました。でも、めったにできない経験をしたことが自信になったのと同時に、自分の気持ちを言葉にして届けることの大切さも実感できました。今回のことに向けて準備した時間も含めて、今後への成長の糧になったと思います。

今春から高校生になります。中学校の入学式は入院中だったので出席できませんでしたが、今度はちゃんと出席し、新しい環境で高校生活を過ごせることを楽しみにしています。体調面に関しては、治療の影響から不安を感じる部分もありますが、出来ることをひとつずつやっていきたい、と思っています。