SIOP Asia 2024(第16回国際小児がん学会アジア大会)でのランチョンセミナー「小児がん経験者は語る!~わたしたちが伝える未来につながるまなび~(Making Their Voices Heard!Pediatric Cancer Survivors Share Stories of Learning, Resilience and Growth)」を共催させていただきました公益財団法人ベネッセこども基金の事務局長 青木智宏様に今回のご支援と今後についてお話を伺いました。

――今回のご支援について当団体への期待や思いについてお聞かせください。

青木:実は、こういう病気の子どもたちも「学びたがっている」というのを、どう伝えたらいいのかを、ずっとこの何年も悩んでいました。これは日本だけに限らないと思うのですが、病気になった子どもが「入院して勉強が遅れてしまう」と言うと、学校の先生もお医者さんも、きっと、これは良かれと思ってのことだと思うのですが「勉強は治ってからでいいよ」って言われるんです。

これが小学生のうちとかだったらまだ少し分かるのですが、中高生になってくると「勉強は治ってからでいいよ」という言葉は残酷なときもあるのだと思います。特に、高校生や私立の学校に入った子などは、転籍・転校の問題になることもある。

すると、自分が人生で積み上げてきたもの、キャリアの設計も含めて、ぜんぶ崩れてしまう。好きなお友達や勉強から離れるだけではなく、深刻なダメージを受けてしまいます。その後、復学する時であっても、もう元の学校には戻れないことも多いと聞きます。

なので、こうした病気の子どもたちの現実をどう伝えたらいいのかなぁ、ということをずっと模索してきました。そこで、シャイン・オン!キッズさんと一緒に、こども家庭庁の人たちにこういうのが現状だよって伝えるときに、シャイン・オン!キッズさんの高橋あきこさんという方の「もっとたくさんの人に伝えたい」という言葉が印象に残りました。

なので、今回のアジアの人たちに対してもシャイン・オン!キッズの当事者の子たちの声を届けたいと思ったのです。シャイン・オン!キッズさんは普段から動画とか取りためてますし、画像や動画もあって発表も上手いし、こういう力を借りれたらなと思ったところが1つ根っこのようなものとしてあります。

――学びの支援というテーマですと、これまでにもベネッセさんの支援の歴史が長いかと思います。今回、子どもたちによる入院中から退院、その後の将来に関する発表をきいてた感想をお聞かせください。

青木:そうですね。今までは、病気の子どもたちの成長を促すために、学びや遊びに重点を置いていました。「手術が怖い」とか「リハビリが嫌だ」と感じている子どもたちは、ゲームに没頭することで現実から逃避することがよくあります。また、勉強する時間でも手術のことを忘れることもできます。これらは、ある意味においてエスケープの手段(現実逃避の手段)であったという一面があったのかもしれません。

しかし、それが変わったのはシャイン・オン!キッズさんの活動を通じてです。例えば、ファシリティドッグやその他の活動に参加することで、子どもたちは癒されます。それは単なる逃避ではなく、本当に血の流れやあたたかさを感じることができる体験なのだと思うんですね。こう、ファシリティドッグとくっついてるだけで、癒されるじゃないですか。

ビーズ・オブ・カレッジ プログラムも同様であるように思います。これらの取り組みは逃避ではなく、手術や治療を受けた経験を、ご自身の誇りに変えるものです。治療の長さが子どもたちの頑張りの証となり、真正面から取り組む姿勢が見られます。

目先を変えるのではなく、現実と向き合いながら温かいものを感じ、自分がそれを乗り越えたという実感が得られる点が、遊びやゲームとは違うのだと思います。

――ありがとうございます。最後になりますが、子どもたちにこういった場所に出て行って経験を話して欲しいであったり、もしくは連れて行きたいみたいな場所があれば教えてください。

青木:企業セクター、ソーシャルセクター、行政セクター、そしてアカデミックセクターの4つの領域を交差する場所での発信を期待したいと考えています。これらの多様なセクターが集まるギャザリングでの反応がどのようなものか、非常に興味があります。

今回のSIOPには医療関係者や企業が参加していますが、行政関係者はあまり多くありません。また、研究者もいらっしゃったと思うのですが、シャイン・オン!キッズのように「この革新的な心のケアプログラムには価値があり、社会的にも医学的にも検証されている」と言えるものが日本にどれだけあるのかと思うと、とても貴重な取り組みをなさっておられると思うんですね。そうした実践を行っている人たちとアカデミックな研究者や多種多様な人をクロスさせたいと考えています。

そのために、実践者とアカデミック研究者が交わる場を作りたいです。そこでは、子どもたちが将来「研究者や医療関係者になりたい」という夢を持てるような、出会いの機会が必要です。そのような場があれば、企業も自ずと参入してくるでしょう。これからは、実践者とアカデミック研究者の交差点を作ることができると、とても良いなと思っています。

ベネッセこども基金様、インタビューに答えていただきました青木様、スタッフの皆様、皆様のご理解とご支援に心より感謝申し上げます。